2024.2.23(土)
ゴジラはなぜ、東京にやってくるのだろうか。繰り返し、何度も何度も、日本の首都を襲うのだろうか。1954年に初代のゴジラが破壊して以来、国会議事堂は幾度となく、がれきと化した。あの異形の怪物が暗喩するものは一体、何なのか▼ゴジラとは「亡霊」なのだ、あの戦争で死んだ日本兵の「凝集体」なのだ、と書いたのは評論家の加藤典洋さんだった。南洋の海から怪物が現れるのは、私たちが死者に向き合っていないからではないか。著書『さようなら、ゴジラたち』に記している。▼兵士たちは「尊い祖国の防衛のための犠牲者」だった。同時に「侵略戦争の先兵」でもあった。戦後の日本社会は、彼らのこの二つの異なる側面を「消化」できていない。戦後を考え続けた加藤さんはそう訴えた▼戦没者を奉る靖国神社をめぐって、気になる動きが生じている。自衛官らの集団参拝が相次いで明らかになった。新たな宮司には、海上自衛隊の元海将が就くという。元将官の就任は初めてだそうだ。▼昔の傷口がうずくような、ひどく落ち着かぬ気持になる話である。何がいま、自衛隊と靖国神社の結びつきを強めさせているのか。戦前の体制への回帰を強く懸念しつつ、しかと、その背景に目をこらしたい▼初代ゴジラは国会議事堂を壊した後、ぐるりと向きを変えるなぜか皇居を迂回し、下町へと向かう。加藤さんは書いている。もしも新たに映画をつくるならば、ゴジラが靖国神社に行くというのはどうか、と。
2024.3.23 朝日新聞